高橋英夫
新潮社
1996年2月発売
ピンク色の付箋が何枚も貼り付いたまま、本の中は赤鉛筆で書き込みがいっぱい。面白がって手に取ったのは間違いないんだけど、どこで買ったんだろう。近所の古本屋ではないような気がする。おそらく旅先で見つけた、ドイツ文学者、文芸評論家でもある高橋英夫さんのエッセイ。「凶悪なまでに増殖をはじめた」。中盤まで書物に関するエッセイがびっしりと収録されている。隣の芝生がすごいことになっているのを傍から眺めるのはお気楽なものです。
「慶応病院の建物が冬の陽をうけて静まりかえっていると直観されたのを忘れない。いまこの中で小林秀雄が病と闘っている、と思ったのだ」。一番印象に残ってしまったので思わず引用してみたんだけど、著者は当時の状況をありありと書く。ここまで細かくなくてもいいんじゃないかと思うくらい、きちんと詳細に書く。身辺的な雑文や思い出、先人たちの追想、旅の話など。このある意味、神経質ともいえるディテールがこの人にしか書くことができない、特別な雰囲気を本に纏わせている。記憶を辿るだけではここまで緻密に書くことはできないだろう。今日も、本さがし。本が山を築き、飽和点を超えてしまった賜物だ。