『想像のレッスン』

鷲田清一

筑摩書房

2019年5月発売


岡山市立オリエント美術館にて。物体は3000年経っても残っているのに、人だけどんどん通り過ぎていく。青銅の剣を見ているだけで、いろんなことが頭に浮かんできた。「美術館を出ると、瀬戸内海に浮かぶ三角錐の島まで作品のように見えた」。校庭に残っている二宮金次郎の銅像を見て、まさに同じことを思ったり。岡山芸術交流2019でどっぷりアートに浸りきった帰り道。久しぶりに行った「スロウな本屋」で表紙とタイトルを目にして思わず購入。

 

「こんな気ままに作らせてもらった本ははじめてだ」。著者がこの十数年で体験したアートについて、どう想像力を働かせたのかが、ほんとに自由気ままに書いてある。本人は目一杯感じることはできても、それを言葉にすることがなかなかできないのが、アートの魅力であり難点。それでもその光景を鮮明に脳内再生できたのは著者のガイドが的確だったからか。読み終わってから、自分の想像力に変化があったのかどうかは正直よくわからない。何かに化けて出てくるかもしれない。出ないかもしれない。そんなのはどうでもよくて。とにかくこういうテーマを一冊の本にまとめてくれた労力に敬意を表したい気持ちでいっぱいです。

 

 

『本の街あるき NO. 118』