佐川芳枝
講談社
1998年10月発売
「もうダメだっ、今日は握れねえよ……」。店に来た、ヴィテヒさんというドイツ人のお客さんと日本酒の飲み比べをして、とうとうお寿司を握っている最中に酔いがこらえきれなくなって親方の口から思わずでてしまったのがこの言葉。タイトルにもあるように、この本は寿司屋のおかみさん、佐川芳枝さんのお寿司好きが高じて嫁いでしまった、東京は東中野にお店を構える寿司屋「名登利寿司」での20年に渡る日々の紆余曲折、波瀾万丈な出来事の数々を綴ったエッセイ集です。
カウンターの内側でも、親方ではなく、おかみさんから見たという視点がとにかく新鮮。世の中にゴマンと出ているお寿司関連の本の中でも良い意味でかなりの異色作。それから、冒頭の親方とお客さんとのほんわかしたエピソードといい、女性の方が書いているからか、どこか柔らかい、そんな感じの雰囲気に本はなっている。親方を筆頭に登場する人達の台詞もかわいらしくて、読んでいるうちに心があったかくなっていた。お店にも是非一度行ってみたくなりました。